東京高等裁判所 平成8年(行ケ)88号 判決 1997年7月01日
神奈川県横浜市旭区上白根町891-20-8-401
原告
森田靖正
埼玉県浦和市瀬ケ崎5丁目16番24号
原告
森田克己
原告ら訴訟代理人弁護士
大西英敏
同
城内和昭
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 荒井寿光
同指定代理人
鈴木公子
同
蓑輪安夫
同
秋吉達夫
同
後藤千恵子
同
小池隆
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告ら
「特許庁が平成5年審判第15811号事件について平成8年2月29日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
2 被告
主文と同旨の判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告両名及び重田慎一は、昭和60年2月4日、考案の名称を「薬効付きティシュペーパー及びトイレットペーパー」(後に「薬草のエキスを含浸させたティシュペーパー」と補正)とする考案(以下「本願考案」という。)につき、実用新案登録出願(昭和60年実用新案登録願第13708号)をしたが、平成5年6月15日拒絶査定を受けたので、同年8月9日審判を請求した。特許庁は、この請求を平成5年審判第15811号事件として審理し、平成6年12月7日出願公告(平成6年実用新案出願公告第47355号)されたが、実用新案登録異議の申立てがされ、平成8年2月29日、登録異議の申立ては理由があるとの決定とともに、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年5月2日原告両名に送達された。
なお、原告両名は、平成7年3月23日、重田慎一から本願考案につき実用新案を受ける権利を譲り受け、同日、特許庁長官に対し、その旨の届出をした。
2 本願考案の要旨
天然木材より製したシートタイプ又はロールタイプのティシュペーパーに薬草のエキスを含浸させて成ることを特徴とするティシュペーパー。
3 審決の理由の要点
(1) 本願考案の要旨は、前項記載のとおりである。
(2) これに対し、引用例1(実公昭59-32389号公報。本訴における甲第3号証)には、「パルプ紙又は合成不織紙等の紙質体に防臭処理を施す汚物用の防臭剤含浸紙に於いて、便所等に発生する臭気又は腐敗臭等による揮発性塩基を不揮発化せしめる炭酸ガス発生の特性を持つ硫酸第一鉄、重炭酸ナトリウム及び焼明礬(「焼用礬」は誤記と認める。)を主成分とした混合剤よりなる水溶液を前記紙質体に含浸処理した事を特徴とした汚物用の防臭剤含浸紙。」(実用新案登録請求の範囲を参照。)が記載されており、また、その第1図イには、その考案のトイレットペーパーの斜視図が、第1図ロには、その考案のチリ紙の斜視図が示されている。
(3)<1> そこで、本願考案と引用例1に記載された考案を対比して検討すると、引用例1に記載された考案でいう「パルプ紙」とは、木材等をパルプとして製紙された紙を指すことおよびパルプは普通は天然木材を原料としていることは、紙の分野において常識であるし、また、引用例1の第1図イおよびロに示されているように、引用例1に記載された考案の含浸紙も、ロール状やシート状としてトイレットペーパーやチリ紙として使用されるものであるから本願考案でいうティシュペーパーに相当するものであると言えるし、さらに、汚物用の防臭剤である硫酸第1鉄、重炭酸ナトリウムおよび焼明礬を主成分とした混合剤よりなる水溶液も薬草のエキスも薬剤の一種であることには変わりはないから、本願考案と引用例1に記載された考案は、「天然木材より製したシートタイプ又はロールタイプのティシュペーパーに薬剤を含浸させたティシュペーパー」である点で一致している。
<2> しかしながら、両者は、次の点で相違している。
「本願考案では、薬剤として「薬草のエキス」を含浸させたのに対して、引用例1に記載された考案では、薬剤として「汚物用の防臭剤であるところの硫酸第1鉄、重炭酸ナトリウムおよび焼明礬を主成分とした混合剤よりなる水溶液」を含浸させている点。」
(4)<1> 引用例2(月刊誌“Parents”59巻8号、1984年8月発行、110頁以下。本訴における甲第4号証)および引用例3(月刊誌“Parents”59巻7号、1984年7月発行、32頁以下。本訴における甲第5号証)には、「Chubs」という商品名のAloe(アロエ)入りと謳っている「Thick Baby Wipes」(厚手の赤ちゃん拭き)および「Wet One’s」という商品名のAloe(アロエ)入りと謳っている「Soft cloth」(柔かな布)の広告が掲載されている。
<2> そして、それらの広告では、商品内容についての詳細な説明はないので、「Thick Baby Wipes」や「Soft cloth」の生地が何であるかは不明であるものの、それらの広告の内容および写真からみて、それらの商品が赤ちゃんや小児等の体の汚れを拭くためのものであることは充分理解することができる。
<3> そうすると、引用例2および引用例3には、赤ちゃんや小児等の体の汚れを拭くものにアロエを含有させるという技術がすでに開示されている。
<4> そして、アロエは、薬草として周知であるし、また、薬草中の有効成分を利用し易くするために、それから有効成分を抽出して、いわゆるエキスとして使用することは普通に行われていることにすぎない。
<5> してみると、引用例1に記載された考案のティシュペーパーにおいて、薬剤として汚物用の防臭剤を含浸させるのに代えて、薬剤として薬草の1つであるアロエのエキスを含浸させて、体の汚れを拭く際にアロエの薬効による効果を期待できるティシュペーパーとする程度のことは、当業者であれば、引用例1および引用例2もしくは引用例3に記載された考案に基づいて、極めて容易に想到し得るところと認められる。
(5) したがって、本願考案は、本願の出願前に日本国内または米国内に頒布された刊行物である引用例1ないし3に記載された考案に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。
4 審決を取り消すべき事由
審決の理由の要点(1)、(2)は認める。
同(3)<1>のうち、汚物用の防臭剤である硫酸第1鉄等を主成分とした混合剤よりなる水溶液も薬草のエキスも「薬剤の一種であることには変わりはない」こと、及び、本願考案と引用例1に記載された考案は「薬剤」を含浸させたティシュペーパーである点で一致することは争い、その余は認める。
同(3)<2>のうち、引用例1に記載された考案では、汚物用の防臭剤であるところの硫酸第1鉄等よりなる水溶液を「薬剤として」含浸させている点は争い、その余は認める。
同(4)のうち、<1>は認め、<2>のうち、「それらの広告では、商品内容についての詳細な説明はないので、「Thick Baby Wipes」や「Soft cloth」の生地が何であるかは不明である」ことは認め、その余は争い、<3>は争い、<4>は認め、<5>は争う。
同(5)は争う。
審決は、一致点の認定を誤り、相違点についての判断及び効果についての判断を誤った結果、本願考案の進歩性の判断を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
(取消事由)
(1) 取消事由1(一致点の認定の誤り)
審決は、汚物用の防臭剤である硫酸第1鉄等を主成分とした混合剤よりなる水溶液も薬草のエキスも「薬剤の一種であることには変わりはない」、本願考案と引用例1に記載された考案は、「薬剤」を含浸させたティシュペーパーである点で一致する、引用例1に記載された考案では、汚物用の防臭剤であるところの硫酸第1鉄等よりなる水溶液を「薬剤として」含浸させていると認定するが、誤りである。
本願考案は、従来、塗る、飲むなどして使用されていた薬草のエキスを日常的に使用しているティシュペーパーに含浸させ、直接人体の皮膚粘膜に接することにより、薬草の薬用効果(治療効果)を生じさせようとするところに本質がある。これに対し、引用例1に記載された考案は、飽くまで汚物槽内に発生する悪臭の消去等を目的とし、硫酸第1鉄等の混合液(硫酸第1鉄等の混合液は、その混合割合によっては人体に有害となるものである。)をトイレットペーパー等に含浸させ日常使用することにより、汚物槽内の悪臭の消去等の効果を生ずるにすぎない。したがって、両者は、その目的及び構成に著しい差があり、その作用効果も全く異なる。
被告は、本願考案の薬草のエキスと引用例1の防臭剤が薬剤という上位概念で共通するから、パルプ紙に薬剤を含浸させた点で一致すると主張するが、本願考案と引用例1に記載された考案は、構成のみならず、その作用効果に著しい差異があり、このような差異を無視して、本願考案と引用例1に記載された考案が薬剤の点で一致すると認定することは誤りである。
(2) 取消事由2(相違点についての判断の誤り)
審決は、「引用例1に記載された考案のティシュペーパーにおいて、薬剤として汚物用の防臭剤を含浸させるのに代えて、薬剤として薬草の1つであるアロエのエキスを含浸させて、体の汚れを拭く際にアロエの薬効による効果を期待できるティシュペーパーとする程度のことは、当業者であれば、引用例1および引用例2もしくは引用例3に記載された考案に基づいて、極めて容易に想到し得るところと認められる」と判断するが、誤りである。
<1> 仮に引用例2及び引用例3から「赤ちゃんの体を拭く布切れにアロエが入っている」と見られるとしても、引用例3からはアロエが入っている相的や効果は明らかにされていない。引用例3から明らかな効果は、洗浄効果(更に推測するとしても保湿効果)までである。これに対し、本願考案では、薬草のエキスを含浸させることにより各種の治療効果を生じさせることを本質とするものである。
<2> 人体の皮膚粘膜に対する薬草のエキスの薬用効果(治療効果)を日常使用するティシュペーパー等の使用により達成しようと着想したことは、格別なことである。すなわち、従来アロエ等の薬草が人体に薬用効果(治療効果)があることは広く知られていたが、その使用方法は、塗る、飲む等によっていた。一方、ティシュペーパーは、日常使用するもので、主として洗浄を目的とし、特質のあるものでも、せいぜい殺菌効果を求めるものにとどまっていた。本願考案は、このような思考から一歩抜け出し、この両者を一体とすることによって、ティシュペーパーやトイレットペーパーという日常的に人体に使用するものにより、薬草の薬用効果(治療効果)を達成するという従来誰も思い至らなかった構成を着想したものであり、その着想は格別である。
原告らは、本願を出願するとともに、製紙会社等に対し本願考案の商品化を申し入れたが、上記業者らは、採算面での問題点等を指摘したが、原告らの着想のすばらしさについては称賛した。その後、原告らの製品化や販売の努力とともに抗菌ブームという時代の流れにより、本願考案を実施した製品が売れると見てからは、製紙会社等が続々と上記実施品と同種の製品の製造、販売を行うようになったものである。
そして、本願考案は、後記(3)に記載のとおりの優れた効果を奏するものである。
<3> 考案の構成が、一見すると公知技術からすれば構成に困難性がないと認められるとしても、実際には長い間当業者が想到し得なかったと認められるのであれば、その考案の構成は、その結果産業の発達に寄与するものであり、進歩性が肯定されなければならない。本件では、本願考案が公開されるまで、当業者において本願考案の構成をなす薬草を含浸させたティシュペーパーを考案し、製造、販売した者はいない。
(3) 取消事由3(効果についての判断の誤り)
本願考案は、薬草のエキスをティシュペーパー等に含浸させ、それを日常的に直接人体の皮膚粘膜に接することにより、薬草のエキスが持つ薬用効果(治療効果)を達成させるという優れた作用効果(治療効果)を有するものである。例えば、アロエのエキスをトイレットペーパーに含浸させて使用することにより、痔に治療効果があったり、ティシュペーパーに含浸させて使用することにより切り傷等に治療効果があったりするものである。このような作用効果は、従来のティシュペーパー等の構成からは得られない極めて優れたものである。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因1ないし3は認め、同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告ら主張の誤りはない。
2 反論
(1) 取消事由1について
乙第1号証(広辞苑)によれば、「薬草」は、「薬用植物」と説明され、「薬用」は、「薬のはたらき」と説明され、また、「エキス」は「薬物または肉・骨・植物などの食物を水・アルコール・エーテルなどに浸して、その有効成分の溶けた汁を蒸発濃厚にしたもので、流動体のものと乾燥したものとがある。」と説明されている。そして、「薬剤」は、「くすり。薬品。」と説明されている。したがって、本願考案の「薬草のエキス」は、「薬剤」の一種であるといえる。
一方、引用例1に記載された考案の「防臭剤」は、同じく乙第1号証によれば、「悪臭を消却する作用ある薬剤」と説明されている。したがって、引用例1に記載された「防臭剤」は、「薬剤」の一種であるといえる。
そうすると、引用例1に記載された考案の防臭剤も本願考案の薬草のエキスも薬剤の一種であるとした審決の認定に誤りはない。
なお、審決は、本願考案では薬剤として「薬草のエキス」を含浸させたのに対して、引用例1に記載された考案では薬剤として「汚物用の防臭剤であるところの硫酸第1鉄、重炭酸ナトリウムおよび焼明礬を主成分とした混合剤よりなる水溶液」を含浸させている点を相違点として挙げているものである。
(2) 取消事由2について
<1> 引用例2からは、同引用例に掲載された「chubs」という商品は、赤ちゃんの体を拭くものであって、アロエを含んでいることが理解できる。
引用例3からは、同引用例に掲載されている「Wet Ones」という商品は、赤ちゃんや子供の体を拭いてきれいにするための布切れであって、アロエを含んでいることが理解できる。
以上のことから、引用例2及び引用例3には、その広告内容及び写真からみて、赤ちゃんや小児等の体の汚れを拭くためのものが掲載され、それらにアロエを含有させるという技術がすでに開示されているとした審決の認定に誤りはない。
<2> アロエは、薬草として一般に知られ、民間薬として広く用いられ、火傷等の治療に効果があることが知られているから、引用例2及び引用例3に記載されている体を拭くものがアロエ自身の持つ治療効果あるいは薬用効果を生じさせるものであることは、引用例2及び引用例3にその旨の直接的な記載がなくとも、当業者であれば通常認識できることである。
<3> 引用例1に記載されたパルプ紙は、汚物処理槽を有する便所に用いられ、日常の排泄物等に常用するトイレットペーパーやチリ紙を意味し、一般に、便所で用いられるトイレットペーパーやチリ紙は、排泄の際に体に付着した汚物や汚れを拭き取るものであるから、上記パルプ紙は、体の汚れを拭くものである。
また、上記<1>で述べたように、引用例2及び引用例3に記載された商品も体の汚れを拭くものである。そして、引用例2及び引用例3に記載されたアロエは、一般に良く知られた薬草であって、その有効成分は薬剤の一種であるし、引用例1に記載されたパルプ紙(本願考案のティシュペーパーに相当)と引用例2及び引用例3に記載された商品は、体の汚れを拭くものであって、かつ、薬剤を含有している点で共通しているから、引用例1に記載された考案のティシュペーパーにおいて、薬剤として汚物用の防臭剤を含浸させるのに代えて、薬剤として薬草の1つであるアロエのエキスを含浸させて、体を拭く際にアロエの薬効による効果を期待できるティシュペーパーとすることは、当業者であれば引用例1及び引用例2又は引用例3に記載された考案に基づき極めて容易に想到し得たことであり、この点の審決の判断に誤りはない。
<4> 原告らは、考案の構成が一見すると公知技術からすれば構成に困難性がないと認められるとしても、実際には長い間当業者が想到し得なかったと認められるのであればその考案の構成はその結果産業の発達に寄与するものであり、進歩性が肯定されなければならないところ、本件では本願考案が公開されるまで当業者において本願考案の構成をなす薬草を含浸させたティシュペーパーを考案し、製造、販売した者はいない旨主張するが、進歩性に関する実用新案法3条2項の規定と、本願考案の公開前に、本願考案のような構成の製品を考案し、製造、販売した人がいるか否かということとは、直接関係のないことである。
(3) 取消事由3について
本願考案の奏する効果も、引用例1ないし3から予想される範囲のものである。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立は、甲第10ないし第12号証、第14号証の1、2、第15ないし第20号証及び第41号証を除き、当事者間に争いがない。
理由
1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)及び同3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
そして、審決の理由の要点(2)(引用例1の記載事項の認定)は、当事者間に争いがない。
2 原告主張の取消事由の当否について検討する。
(1) 取消事由1について
<1> 審決の理由の要点(3)(一致点、相違点の認定)<1>のうち、汚物用の防臭剤である硫酸第1鉄等を主成分とした混合剤よりなる水溶液も薬草のエキスも「薬剤の一種であることには変わりはない」こと、及び、本願考案と引用例1に記載された考案は、「薬剤」を含浸させたティシュペーパーである点で一致することを除く事実、同(3)<2>のうち、引用例1に記載された考案では、汚物用の防臭剤であるところの硫酸第1鉄等よりなる水溶液を「薬剤として」含浸させている点を除く事実は、当事者間に争いがない。
<2> 本願考案の「薬草のエキス」が「薬剤」の一種であることは明らかである。一方、乙第1号証(新村出編「広辞苑」昭和30年5月25日 第1版発行)によれば、引用例1に記載された考案の「防臭剤」は「悪臭を消却する作用ある薬剤。」と説明されていることが認められる。そうすると、引用例1に記載された考案の「防臭剤」も本願考案の「薬草のエキス」も薬剤の一種であり、「薬剤」を含浸させた等の点で一致するとした審決の認定に誤りはないと認められる。
原告らは、本願考案は、薬草のエキスをティシュペーパーに含浸させ、直接人体の皮膚粘膜に接することにより、薬草の薬用効果(治療効果)を生じさせるものであるのに対し、引用例1に記載された考案は、汚物槽内に発生する悪臭の消去等を目的とし、硫酸第1鉄等の混合液をトイレットペーパー等に含浸させることにより、汚物槽内の悪臭の消去等の効果を生ずるものであり、両者は、その目的、構成及び効果に著しい差があるから、このような著しい差異を無視して、本願考案と引用例1に記載された考案が薬剤の点で一致すると認定することは誤りである旨主張する。
しかしながら、本願考案の「薬草のエキス」も引用例1に記載された考案の「防臭剤」も「薬剤」であることは、上記説示のとおりであり、原告らの主張する本願考案と引用例1に記載された考案との目的、効果の相違等の点は、引用例1に記載された考案に引用例2又は引用例3に記載された考案を組み合わせることの容易性の判断の中で考慮されるべき事項であるから、「薬剤」の点での一致点の認定の誤りをいう原告らの主張は採用できない。
したがって、原告ら主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2、3について
<1> 審決の理由の要点(4)(相違点についての判断)のうち、<1>、<2>のうち、それらの広告では、商品内容についての詳細な説明はないので、「Thick Baby Wipes」や「Soft cloth」の生地が何であるかは不明であること、及び、<4>は、当事者間に争いがない。
<2> 甲第4号証によれば、引用例2には、同号証に掲載された「chubs」という商品は赤ちゃんの体の汚れを拭くためのものであり、アロエを含んでいることが開示されていると認められる。
甲第5号証によれば、引用例3には、同号証に掲載されている「Wet Ones」という商品は赤ちゃんや子供の体を拭いてきれいにするための柔らかい布切れであり、アロエを含んでいることが開示されていると認められる。
そうすると、引用例2及び引用例3には、赤ちゃんや小児等の体の汚れを拭くためのものが掲載され、それらにアロエを含有させるという技術がすでに開示されているとした審決の認定に誤りはない。
<3> そして、アロエは、薬草として一般に知られ、民間薬として広く用いられ、火傷等の治療に効果があることが知られていることは、当裁判所に顕著な事実であるから、引用例2及び引用例3に記載されている体を拭くものが、アロエ自身の持つ治療効果あるいは薬用効果を生じさせるものであることは、当業者に自明な事項であると認められる。
<4> 前記(審決の理由の要点(2))に説示の事実からすると、引用例1に記載のトイレットペーパーは、汚物を拭き取るために直接人体の皮膚粘膜に接するものであることが認められる。
<5> そうすると、引用例1に記載された考案のティシュペーパーにおいて、薬剤として汚物用の防臭剤を含浸させるのに代えて、薬剤として薬草の1つであるアロエのエキスを含浸させて、体の汚れを拭く際にアロエの薬効による効果を期待できるティシュペーパーとすることは、原告らの主張する、硫酸第1鉄等の混合液はその混合割合によっては人体に有害となるものであること、引用例1に記載された考案は汚物槽内に発生する悪臭の消去等を目的とするものであること、本願考案が公開されるまで当業者において本願考案の構成をなす薬草を含浸させたティシュペーパーを考案し、製造、販売した者はなく、製紙会社等が原告らの着想のすばらしさについて称賛し、その後、本願考案を実施した製品が売れると見てからは続々と同種製品を製造、販売を行うようになったこと等の事情が認められるとしても、当業者であれば、引用例1と引用例2又は引用例3に記載された考案に基づいて極めて容易に想到し得るところと認められる。
これに反する原告らの主張は、上記に説示したところに照らし、採用できない。
<6> そして、本願考案の奏する効果として原告らが主張する効果も、引用例1と引用例2又は引用例3に記載された考案とを組み合わせることにより当然予想できる程度のものであり、これを格別のものと認めることはできない。
<7> したがって、原告ら主張の取消事由2、3は理由がない。
3 よって、原告らの本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、93条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)